2020年秋・冬号

「将来ビジョン」を薬局・薬剤師は
自分たちで策定を

執筆者:藤木 洋 
 薬機法改定により、この9月、服薬期間中のフォーローアップの義務化が施行されました。国よって強く求められてきた「対物業務から対人業務への転換」を象徴する薬剤師業務の一つです。来年8月には「専門医療機関連携薬局」と「地域医療連携薬局」の認定制度がスタートしますが、このように法改定や国が策定した路線を追い続けるだけで、薬剤師は職能を全うしていると言えるのでしょうか。処方箋に基づいた調剤を行うだけで、高齢化が進展する将来の社会や医療資源の乏しい地域で薬剤師職能を完遂したと言えるのかどうか、疑問です。海外では薬剤師に一部の処方権を与えている国もあります。目の前に迫る壁だけに目を捕らわれることなく、5年先、10年先のわが国を想定し、薬剤師の果たすべき役割のウイングを広げてほしいと願っています。

 2015年10月、厚労省は「患者のための薬局ビジョン」を公表しました。ちょうど、同じ年の6月、日本看護協会は「看護の将来ビジョン」を発表しました。「2025年に向けた看護の挑戦」と副題に掲げ、2015年当時から10年後を見通し、看護の在り方や看護職のあるべき姿を明確に示しました。
 その中で特に目を引くのは、看護職の裁量権を広げていくと宣言している点です。「将来的には」と前置きし、「地域において人々が安全に安心して療養できることを目指し、常に人々の傍らで活動する看護職の、医療的な判断や実施における裁量の拡大を進める」と明記しています。同ビジョンでは明言していませんが、具体的には、医師の指示がなくとも一定レベルの診断や治療を行える裁量を持つ「ナース・プラクティショナー」の資格を、新たに創設していく必要があると考えているのです。
 看護職は「保健師助産師看護師法」によって、医師の指示がない限り「診療の補助」行為を行ってはならないと規定されています。そのため、医師の指示がなくとも一定の診断や治療を行えるナース・プラクティショナー制度を導入することが、超高齢化や医師の偏在が進むわが国において、国民の利益に繋がると考えているようです。現在、ナース・プラクティショナー制度は、アメリカやカナダ、アイルランドなどで導入されているようです。
 看護職は、自らの職能団体が将来ビジョンを作り、その中で新たな資格制度の創設を主張しています。一方、薬局・薬剤師に関わるビジョンは国が策定し、今、薬局・薬剤師は国が設けたハードルを乗り越えることに、懸命に取り組んでいます。診療報酬改定のたびに新しい宿題を課され、「患者のための薬局ビジョン」や薬機法改定などで更にハードルを立てられる今の枠組みとは別に、自分たちで、将来の進むべき道を示すべきです。薬局業界が自ら「薬局の将来ビジョン」を作り、薬剤師が自ら「薬剤師の将来ビジョン」を策定するべきです。筆者は、与えられた宿題をこなすだけの薬局・薬剤師で止まってほしくはありません。真に、国民の利益に通じる活動に取り組むためには、自分たちで宿題を課すと共に、自分たちで目標を掲げる必要があると思います。
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